2024-25シーズンよりアイシンク株式会社は新たにBリーグのアルバルク東京のオフィシャルシルバーパートナー契約を締結しました。今回はアイシンク株式会社・伊藤健太郎代表とアルバルク東京・伊藤大司GMの特別対談記事をお送りします。
海外でのビジネス経験を通してプロジェクトマネジメントの重要性を感じ、現在はそれを担える人材を育てる研修会社を経営する伊藤健太郎代表。
一方伊藤大司GMは若くしてバスケットボールで海を渡り、異なる文化の中で生き残る術を磨き、現在はアルバルク東京でビジョン策定と編成を行うリーダーとして活躍されています。
二人の対談を通してビジネスとスポーツ、異なる業界でありながらプロジェクトマネジメントの視点からも共通する部分が多くあることが見えてきました。
福岡市生まれ。
九州大学大学院(機械工学専攻)を修了後、日本鋼管株式会社(NKK、現JFEエンジニアリング株式会社)にて船用PCエンジンの製造、環境プラントの国内・海外プロジェクトに従事。2000年5月アイシンク株式会社創立。
三重県鈴鹿市生まれ。 鈴鹿市立創徳中(三重県)卒業後にモントローズ・クリスチャン高(アメリカ)へ留学後、ポートランド大学へ進学。2010年よりトヨタ自動車アルバルク東京でキャリアをスタートし、プロ生活を経て現在はアルバルク東京のトップチームゼネラルマネージャーを務める。
ーまずはお二人それぞれの仕事と取り組んでいることについて教えてください。
伊藤代表
アイシンクはプロジェクトマネジメントに特化した社会人向けの研修をメインに、企業のコンサルティングなどを行っています。2000年に創業して25年になります。
プロジェクトを進めるにあたって自然発生的なリーダーでは価値観が違う人たちをうまくまとめるのは難しくなります。
特に新商品の開発や高度な研究などを伴うプロジェクトになると、まだ世の中にない新しいことを行うのでその難易度はさらに高くなります。
そこでプロジェクトマネジメントをきちんとできるようなトレーニングをやらせていただいています。
アイシンクが長年に渡って様々な業種の企業に向けて提供してきたノウハウは異なる業界でも役立つものだと思っていました。
そこで着目したのがスポーツの世界です。現代のスポーツチームには「成功するための戦略的リーダーシップ」「効率的なチーム運営」が求められており、その領域はまさにアイシンクが強みとしてきた部分です。
今回卓越したチームワークとリーダーシップを発揮するアルバルク東京がさらなる飛躍を遂げるためにお役に立てることがあると思い、パートナーシップ契約を締結しました。
アルバルク東京がより多くの観客を勇気づけ、それが波及していくことが結果仕事をしている人たちの元気=すべてのプロジェクトの成功に繋がればと思っています。
今プロジェクトマネジメントのトレーニングではチームの「適応力」「回復力」に注目が集まっています。
今回は国内外でご活躍されてきた伊藤GMが様々な壁に対してどのように適応して乗り越えてきたのかをお聞きしていきたいと思います。
伊藤GM
私は今アルバルク東京でGMとしてチームづくり全般に携わっています。ヘッドコーチを含めた指導者や現場スタッフの人事や選手の編成に関わっているほか、アルバルク東京の場合はクラブの方から方向性、ビジョンづくりを任されています。中長期的な視点でチームづくりを考えています。
海外での経験と壁の話でいくと私は15歳から22歳まで8年間アメリカに渡って学校に行きながらバスケットボールをしていました。いろいろな人種や国の文化に触れる体験ができたというのは今につながっています。
海外でプレーをするにあたって私の一番のテーマはそこでどうサバイブするかということでした。プレースキルも大切ですが、それ以上に自分なりのリーダーシップをどう発揮して、異なる文化に馴染んでいくかをひたすら試行錯誤しました。
まだ海外では日本人やアジア人に対して差別的な目はあって、ましてやバスケットボールとなると少し見下される部分はあります。だからこそ自分ができることを示し、チームが円滑に回るためにどう貢献しているかを見せていくことが大切です。
僕は「一緒のチームにいることが楽しい存在」でいることを一番大事にしてきました。
一緒にプレーした選手の中には後にNBAで100億円、150億円稼ぐような超一流もいて、正直体格もスキルも追いつけない自覚がありました。
それならどこでアピールしていくか、必要としてもらえるかと考えた時にとにかく「一緒にいて楽しい」と思ってもらえるようになろうと。
選手だけでなくコーチにも「大司がコートにいるとすごくチームがポジティブな雰囲気になる」と感じてもらえるように意識していましたね。
ーチームに必要とされるために具体的にどういった行動をしていたのでしょうか。
伊藤GM
「もっとこうしよう」「こうしたらもっと良くなるんじゃないか」といった言い方をすごく意識していました。怒っていたとしても否定的な言葉はかけません。
一選手としてなら本来自分が目立って上のレベルに行きたい、いい契約を結びたいといった心理が働くのでそこまで考えないと思います。
でも実はコーチたちは選手に対して、客観的な視点で見えたことをどう伝えればいいのかという点にすごく手を焼いています。そこで同じ選手目線でリーダーシップを発揮して、チームをまとめてくれるのであれば重宝される存在になれます。
伊藤代表
もう一つチームの適応力、回復力をトレーニングする中で重要になるのが「チームメンタルモデル」です。「チームメンタルモデル」とはみんなが同じ目標を持って、それに向かう手順や方法を共有し、お互いの長所・短所を理解してサポートできるような行動規範があることを指します。
でもプロの世界だとチームメンタルモデルを保つことより、個として目立とうとする場面もありそうです。実際はどうですか?
伊藤GM
確かに個人の価値を上げるという意味ではそうなんですけど、少なくともアルバルク東京ではチームとしての成功に重きを置いています。
だから普段からヘッドコーチは“チームにとって何が成功か”、繰り返し言い続けています。単なる確率だけでなく、状況に応じてチームの成功に一番近づく選択をすることを細かく落とし込んで反復しています。
ただ、その前提としてチームの成功を個人としても喜べるマインドを持てるかはありますね。仮に自分がコートに立っていなくてもチームの成功を素直に認めて喜べるかどうかはすごく重要です。チーム作りでもそういう資質や人間味を持っているかは見ています。
ー今伊藤GMはアルバルク東京でどのようなことを意識してチームづくりをしているのでしょうか。
伊藤GM
もちろん結果にこだわって勝つ、優勝するのが目標ですが、それ以上に魅力のあるクラブをつくることを意識しています。アルバルク東京を観ると自分も頑張ろうと思える、すっきりするといった気持ちになれるチームづくりを重要視しています。 そのための人選を行う必要があるので、当然人間性も見ています。僕がGMとして大事にしているポイントはタフで、アンセルフィッシュ(利他的)で、野心があって、責任感を持てること。その4つを見極めて獲得するようにしています。
ーその4つのポイントが“アルバルク東京らしさ”の源になっているのだと思いますが、もう少し詳しく教えてもらえますか?
伊藤GM
私は歴史ある名門であるアルバルク東京に入ったこと、優勝することで満足するような選手ではダメだと思っています。一つの試合、練習、プレーに対して満足せずに常に現状に疑問を投げかけ続けられるハングリーさや野心を忘れないことが大事です。
クラブとしても東京から世界へ飛び出していくことをビジョンとして持っているので、いかに海外で通用するチーム、選手になるかを追求していける人材を求めています。全員がそれぞれの国の代表選手になって、世界一を目指して未来を描いている状態が理想です。そのためにチャレンジして、常に野心を持って毎日過ごすことがアルバルク東京らしさにつながると思っています。
ー昔と比べるとスポーツの指導のあり方も大きく変わってきたと思います。今の時代にプロレベルでコーチが選手を叱ることもあるのでしょうか?
伊藤GM
怒られるのは「チームとして目指してやってきたこと」に背いた時だけですね。ミスしたから怒られるわけでないんです。ドリブルを試みてボールを奪われるとか、シュートを外すとかそういうことは仕方ないとしても、練習からチームで目的認識を持って準備したことができていないと怒られるわけです。
伊藤代表
実は以前平尾さん(故・平尾誠二氏:元ラグビー日本代表・監督)とお話した時に近いことをおっしゃっていました。
日本のコーチは結構細かいミスを叱ったりしていたのですが、イングランドのコーチは全然怒らないと。ただ唯一、攻撃できるのに試みなかった時だけものすごく叱るんだそうです。そこはバスケットボールも同じですね。
ー方針の違いからコーチ同士が衝突することはないのでしょうか。
伊藤GM
あります。うちの今のヘッドコーチはアシスタントコーチも含めてどんどん意見を出すように言っています。
でもあくまで責任者はヘッドコーチなので最終的にそこが決めたらやるしかないです。もちろん結果を残せなかったらヘッドコーチが責任を取ることになるわけです。
ここでチームとして重要になるのが「Disagree and Commit(反対でも決まったらコミットする)」。要は納得できなくても、決定までの過程でぶつかったとしても、最終的に決まったらチームのためにとことんコミットするのを約束するということです。
伊藤代表
私の中にも近い考え方はあって、リアクションとレスポンスの間の「ギャップ」をどう捉えて行動するか、だと思っています。リアクションはその瞬間抱く感情で、レスポンスはそれに対する合理的なアプローチのことです。
例えばプロジェクトを進める過程で納得できないことを言われたら「嫌だな」と思うわけですよね。その感情自体はどうすることもできませんが、それに対するレスポンスとして自分の行動は変えられるはずです。全てを自分の成長のために使う、訓練の場だと思って取り組むのがいいと思います。
そもそも意見が完全に合うなんて絶対あり得ないんです。その前提に立って問題をどう解決していくか。重要なのはイメージを持つことです。
私はテニスをやっているのですが、チャンスボールの時にゆっくり返すのではなくハードヒットしておくと仮に失敗しても隙あらば攻撃してくるという恐怖心を相手に与えることができます。それが後々結果を左右するような大きな影響となっていきます。
プロジェクトマネジメントにおいてもメンバーに「リーダーが正しい意思決定をしようとしている」と感じさせるようなプロセスを踏んでイメージを持ってもらう。それで十分だと思いますし、逆に言うとそれ以上はコントロールできないと思います。自分の手が届くことだけをしっかりやっていくことが大切です。
伊藤GM
チームが円滑に回るようにこの選手をリーダーにしたいと思うことがあるんですけど、僕がそうなるように周りに言うことを聞かせるのも違いますよね。
伊藤代表
リーダーという役割を決めることまでしかできないでしょうね。その先のメンバーが本当にコミットしてやってくれるかまでは調節できません。
リーダーとなるプロジェクトマネージャーは、実際には部門横断型でプロジェクトを進めることになります。いろいろな部署から異なるポジションの人間が集まるのでプロジェクトマネージャーの役職が必ずしも上とは限りません。メンバーの中に自分よりもポジションが上の人がいたりすれば、プロジェクトへのコミット具合を組織としての評価や給料に反映させるといった公式な影響力は持てないことになります。
そうなるとプロジェクトマネージャーはこの案件に対する熱意を伝える、メンバーの話をきちんと聞く、コンフLクトが起きても正しいプロセスをたどる、などといった非公式な影響力を使ってアプローチをする必要があります。それを見せることでメンバーの心を掴んで信頼関係を獲得することが非常に重要です。
もしそれができないまま機械的にプロジェクトを動かしても成功は非常に難しくなります。大抵人は持っている力の80%ぐらいまでしか出さず、逆に25%以下になったら解雇されると言われています。つまりその間のクビにならない程度で力を出そうという心理が働くわけです。叱られそうになって初めて急いだり、アイディアがあっても自分に役割を振られるのが嫌なので言わなかったりします。
その中でもう一つリーダーにできることは一人ひとりがプロジェクトのオーナーである自覚を持ってもらえるようにすることでしょう。リーダーになる人は優秀な場合が多いので、ある程度一人でできてしまう側面があります。でも全部やってしまうとメンバーはただ与えられたものだけやる、受け身の存在になってしまいます。
だからあえてプロジェクトの内容や計画を不完全にしておいて、メンバーにアイディアを出させるんです。その過程で出てきたものを肯定しながら作り上げていくプロセスを大事する必要があります。
プロジェクトマネジメントは「What(何を)」よりも「How(どのように)」進めていくかが重要です。その進め方の中でみんなが「このプロジェクトは自分たちのものだ」とオーナーシップを持てるようになると成功のために動くようになります。
ーお二人が大切にしている言葉を教えてください。
伊藤代表
私は「Draw the line(線を引く)」です。
これは海外の人たちと仕事した時に、リーダーの役割は一旦正しいかどうかは別にして何もないところに最初に線を引くことだと教わりました。
誰もがどうしていいか分からない時にまず線を引き、それをベースにやりながらみんなで修正していく。そのためにまず最初に線を引くのが重要だということです。
伊藤GM
私は「Control what you can control」。結局自分がコントロールできる範囲には限界があって、できないものは仕方ないんです。コントロールできるものだけにフォーカスして、できないものは自分の中で受け入れて、次に進むということですね。
ー最後にこれを見ている皆さんにメッセージをお願いします。
伊藤GM
アルバルク東京は日々野心を持って常に上を目指しています。その中でそれぞれのパートナー様ともお互いに成長し合える関係を構築し、バスケットボールを通じて社会にいいものを一緒に届けていきたいです。
我々は子どもたちの憧れであり続けるとともに、大人の方にもまた明日から仕事を頑張れるような活力を生み出していきたいと思います。
選手やスタッフも含めて“アルバルク東京”として強くてカッコいい、老若男女に憧れられる存在になって東京から世界に飛び出していくチームをつくっていきます。
伊藤代表
流れの激しい世の中でスピード感を持って変化すべきところは変えながらも、大切にしたい価値はぶらさずにやっていきたいと思っています。
価値を共有するという点ではスポーツを通じた一体感をみんなで味わうことはいいことだと感じていて、今回アルバルク東京さんとご一緒することになりました。
私はアルバルク東京さんには勝ち続けること以上に苦しみながら、たとえ負けても凹まないでまた次に向けて挑戦していく姿を見せていってほしいと思っています。
我々は「すべてのプロジェクトを成功させる」をビジョンとして掲げています。先ほど人は持てる力をどの程度発揮しているかという話をしましたが、基本的に本当はもっと出せるはずです。それはすごくもったいないので、プロジェクトの成功を通じて皆さんに自信をつけてもらって、力をしっかり発揮してもらえればと思っています。
アルバルク東京は、東京を活動エリアとするB.LEAGUE B1所属のプロバスケットボールクラブです。
1948年、前身となるトヨタ自動車株式会社男子バスケットボール部として創部以来、トップリーグ制覇4回、天皇杯制覇2回を誇り、2016年Bリーグ発足後もリーグ連覇、日本のクラブで初めてアジア制覇を成し遂げました。
また、ホームゲームでは試合以外も楽しめる非日常のエンターテインメントを提供しており、クラブ主管試合最多入場者数記録を7度更新、多くの方に来場いただいています。
さらに、2025-26シーズンからは、江東区青海にオープンした「TOYOTA ARENA TOKYO」をホームアリーナとし、さらなる新しい観戦体験の提供を追求していきます。